続・僕の風景  人と絵と放浪と
文・絵 宇野マサシ
隅田川
( F20号 )
原田居酒屋(原田芳雄) / '04年8月27日号掲載
 映画監督の林海象さんと俳優の原田芳雄さんはとても仲が良(い)い。原田さんは海象さんの長男のようでもある。
 原田さんと知り合ったのは映画「海ほおずき」の打ち上げの時だったが、それが縁で度々(たびたび)原田さんの家に遊びにゆくようになった。
 原田さんの家は世田谷の東北沢にある。近くに原田さんの親友の俳優、柄本明さんやピアニストのフジコ・ヘミングさんなどが住んでいる。その人たちをふくめて、原田さんの家には芸能界の関係者がよく集まる。通称「原田居酒屋」。
 もちろん、原田さんは忙しい人で、外国にもよく仕事で出掛け家に居る時間は貴重だろうから、そうした時間、外に飲みに出掛けてゆくことをせず、人を家に招いて会話をする方が合理的に違いない。だが、人を家に招くというのは気遣いもするし後片付けだって大変だ。
 奥さんの章代(あきよ)さんが、こうした場を取りしきることにおいては名人だ。章代さんは早稲田大学で演劇部にいた人で、岡山の高校時代は生徒会長をつとめた才媛(さいえん)だ。いつも、章代さんの采配(さいはい)には目を瞠(みは)る。
 あたたかな人柄の原田さんと、気配り名人の章代さんのコンビネーションでできている通称原田居酒屋(自宅)は、だから居心地が良(い)い。映画監督も音楽関係者もマスコミの人もその気楽な空気の中に溶け込んでくる。特に若い俳優さんなどは、自分で勝手に冷蔵庫などを開けてビールを取り出す。そしてめいめい自由に会話を楽しんでいる。  
 
 原田さんの家で、僕は色々な人と出逢った。映画監督の坂本順二さん、望月六郎さん、俳優の杉本哲太ご夫妻、石橋蓮司さん、菊川怜さん、及川光博さん、柄本明さん、赤座(あかざ)美代子さん、江藤潤(えとうじゅん)さん、佐野史郎さん、歌手では山崎ハコさん、宇崎竜童(りゅうどう)さんなど、普段では画面でしか見られない人ばかり、あの人もこの人もまるではじめはソックリさんの大会のようにも錯覚した。
 宇崎竜童さんは見かけによらず酒の飲めない人で、ケーキばかりを食べていた。フジコ・ヘミングさんは大分の年令のようだが、どことなく少女のようだ。
 
 この時の興奮を詩人の高橋睦郎さんに伝えると、
 「そういう世界は恐いですよ」
 と言った。恐いも何も、扉はまだ開いたばかりだった
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