続・僕の風景 
人と絵と放浪と
文・絵 宇野マサシ
「水鳥たち」

小貫博士の道 (彦根) / '04年12月3日号掲載
 7時間40分の長編ドキュメンタリー「四季、遊牧-ツェルゲルの人々-」の新鮮な映像は、墨田文化センターをかわきりにして日本全国で上映され静かに感動を呼んでゆき、今でも呼び続けている。
 小貫さんと伊藤さんは滋賀県立大学を拠点にして、モンゴルの大地からのメッセージを、都市化し高度経済化、資本主義化してゆく世界の趨勢に、遊牧民の生活をモデルとして、21世紀は大地の復権、自然を取り戻す方向を目指せと提案する。 
 
 週休5日制を実現しなければならない、と小貫博士から『菜園家族レボリューション』(社会思想社、現代教養文庫)という文庫本が送られてきた時、正直僕は戸惑った。
 その言わんとする主旨、理想(あえて理想という)は理解できるとしても、それを現実の社会の変革の枠組みとして実現することがどれ程可能だろうか。 
 個人の生活の範囲で、現代の日本の中で週休5日制を実現することさえ、余程の条件をクリアーしなければむつかしいだろう、と僕は思う。
 しかし、小貫さんはモンゴルの調査を終えた後、滋賀県の山村(高島郡朽木村)に入り、まだ自然の多く残る村でそうした生活を模索しはじめた。「里山」と呼ばれる古くからの村落共同体に注目し、その研究から未来の日本の生活のあり様を探る試みは、今の日本の閉塞状況を打ち破る明るさを確かに感じさせる。NHKはいち早くそのことに注目し、映像を作りはじめたように見受けられる。 
 小貫博士の純粋な理想は、確実に現実的明るさを日本にもたらす力を秘めている。
 
 1998年2月小貫博士は「遊牧」の完成の祝いにと冨沢満さん(「遊牧」のアドバイザー)と僕と延子を彦根で琵琶湖の白鮠(しらはやを食べさせる料理屋に招いてくれた。 
 彦根の夜を満喫して用意されたホテルに泊まり、翌日滋賀大学の研究室に案内される途中、小貫博士の運転する四輪駆動車は警察官に止められた。シートベルトをしていない為の軽い交通違反で、慌てた冨沢さんも説明に降りていったが、モンゴルではもちろんシートベルトで止められる体験などなかったろうから、小貫博士はいたずらをして叱られた子供のような顔をしていた。 
 注意が終わり彦根の町を一回りして、どういう訳か又再び同じ警察官の前に立ち戻った。慌ててシートベルトをし、又町を一回りすると再び同じ警察官の前だった。 
 2度ならず3度まで叱られた場所に戻るとは、小貫博士の道は彦根の町に1通りしかないが如くだった。
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